労使協定書や定期健康診断の結果、従業員が常時10人以上の場合には就業規則など、労務管理上、企業が保存しておかなくてはならない書類は多くあります。今回はその中の「法定三帳簿」について解説します。
法定三帳簿とは
「法定三帳簿」とは、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」の三帳簿の総称です。労務管理を適切に行うためには必須であり、企業規模にかかわらず作成・保管が義務づけられています。
- 労働者名簿
労働者名簿とは、従業員(日々雇用は除く)を採用した際に従業員の氏名・雇入年月日等を記載する書類です。労働者名簿は1人1枚作成され、内容に変更があった場合には都度改訂が必要です。
◇様式
労働基準法施行規則 様式第19号(第53条関係) ※1
下記記載事項が網羅されていれば、任意の様式で作成することも可能
◇記載事項
氏名 生年月日 履歴 性別 住所 雇入の年月日
退職・解雇・死亡の年月日およびその理由
従事する業務の種類(従業員が30人以上の場合に限る)
◇保存期間
労働者の死亡、退職又は解雇の日から5年間(当分の間、3年間)
労働者名簿は、有給休暇の付与日数の確認や通勤手当の計算時の経路確認に使用するほか、雇用関係の助成金を申請する際の労働者の情報提示の際に使用することもあります。
労働者名簿に記載する内容は個人情報に当たるため、個人情報保護法の対象となることも覚えておきましょう。
- 賃金台帳
賃金台帳とは、従業員への給与の支払い状況を記載する書類です。労働者名簿とは異なり、日々雇用を含むすべての従業員について作成する必要があります。
◇様式
労働基準法施行規則 様式第20号(第55条関係) ※2
下記記載事項が網羅されていれば、任意の様式で作成することも可能
◇記載事項
氏名 性別 賃金の計算期間 労働日数 労働時間数
時間外労働時間数 深夜労働時間数 休日労働時間数
基本給や手当の種類及びその額 賃金の控除項目及びその額
◇保存期間
労働者の最後の賃金について記入した日から5年間(当分の間、3年間)
賃金台帳が源泉徴収簿を兼ねている場合、源泉徴収簿の保存期間が7年のため、7年間
“給与の支払い状況を記載”ということで給与明細と混同しがちですが、賃金台帳は賃金の計算期間や労働時間数等の記載がされていることで、従業員に支払った賃金の根拠を示す資料となります。
- 出勤簿等
出勤簿等とは、従業員の労働時間を把握するための書類です。賃金台帳と同様、すべての従業人について作成する必要があります。
◇様式
任意
◇記載事項
氏名 労働日数 出勤日 労働時間数
時間外労働を行った日付と時刻・時間数
休日労働を行った日付と時刻・時間数
深夜労働を行った日付と時刻・時間数
◇保存期間
従業員の最後の出勤日から5年間(当分の間、3年間)
出勤簿のデータは従業員に適切な給与を支払うために必須の資料といえます。また、企業には、従業員の長時間労働の防止などを目的として、労働時間を適正に把握する義務があり、把握方法についても、自己申告制の労働時間の記録では適切な労働時間の管理が難しいことから“客観的な記録が基礎となる方法”と定められています。出勤簿を適切に作成・保存することで、適切な労務管理に役立てましょう。
各種帳票の保存期間については、2020年4月の法改正に伴い、3年から5年に延長されています。経過措置として当分の間は3年とされていますが、今後に備えて5年保管することが望ましいでしょう。 ※3
法定三帳簿を作成・保存していない場合
事業主には法定三帳簿の作成・保存を行うことが労働基準法で義務付けられており、違反した場合は同法120条により30万円以下の罰金が課せられます。
現実的には即罰則適用というものではなく、作成・保存をしていなかった場合、まずは労働基準監督署からの指導が入ることが多く、その指導にも従わない等、事業主の行為が悪質な場合に罰則が適用されることになります。
指導が入るケースとしては、
・帳簿を作成していない ・帳簿の作成はしているが保存期間が順守されていない
・情報が古く、更新がされていない ・虚偽の記載をしている
などが考えられます。帳簿を正しく作成することはもちろん、作成後は必要に応じたメンテナンスを行うことを心がけましょう。
まとめ
従来、これらの三帳簿について紙ベースでの保管が主流でした。しかし、画面での表示・印刷が可能であることや労基署の臨検時等の際に直ちに必要事項を明らかにすることができて写しを提出できること等の要件を満たせば、各帳簿、電子データで保存することが認められています。
紙媒体での保存だと紛失や災害時の消失のリスクも懸念されます。また、働き方改革が進み、テレワークなどのリモートでの働き方を取り入れる企業も増えてきています。“データの紛失・消失のリスクが低いこと”“データをいつでもどこでも確認することができること”は、各種帳簿の電子化は企業にとっても従業員にとっても双方メリットがあるといえるでしょう。帳簿類の電子化について、なにから始めたらいいかわからないという方は、お気軽に社会保険労務士までお問い合わせください。
※1 ※2
主要様式ダウンロードコーナー【厚生労働省】
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/
※3
労働基準法の一部を改正する法律について【厚生労働省】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00037.html